<飼育 第5話>
「ほら、さっき教えたとおりに準備をしろ」
飼育係から、冷酷な指示が飛んだ。
手には太くて長い鞭を持ち、今にも振り下ろそうとしている。
さきほど鞭で打たれる女を見ているエリスには、鞭で打たれる恐怖が忘れられない。
ビシィッという大きな音と、その後に聞こえる女の悲鳴…。
エリスは急いで両足を開き、尻を高く突き出す格好になった。
両肘を床に着け、頭を腰よりも低くする。
今まで婚約者にしか見せたことのない恥ずかしい部分が、今は憎いオーク達の前で丸出しになっている。
酷い…まるで、犯してくださいってお願いしてるみたい…。
あそこも、お尻の穴まで丸見え…。
なんて惨めで情けないの…。
村をめちゃめちゃにしたオークに、まさに今おもちゃにされようとしている。
家族を、婚約者を奪った、憎くて憎くてどうしようもない敵に…。
くやしい…。
エリスの頭の中は、負の感情で埋め尽くされていた。
敵に対する憎しみ。
鞭で打たれるという恐怖。
犯されるという屈辱。
もうどうしようもないという無力感。
それらが合わさり束となって、エリスには強烈な悲しさとなって認識された。
今まで気丈に振る舞い、我慢していた感情が一気に溢れ出す。
エリスの目から涙が溢れだし、頬をつたった。
「う、うううぅぅ…ああ、ああああああっ…」
顔は涙でぐしゃぐしゃになり、口からは悲壮な嗚咽を漏らす。
今までぎりぎり保たれていた感情が、一気に崩壊したのだ。
「うう…い、いや…」
眉間に皺を寄せ、震える唇から心の奥底にある、本心があらわになる…。
「いや…」
「いや、いやっ! い、い、いやあああああああああぁぁっ!!」
今まで従順に命令に従っていたエリスが、大声を上げながら急に暴れ始めた。
なぜ?なぜなの?
なぜ自分がこんな目に合わなければいけないの!?
昨日まで婚約者と村で平和に暮らしていたのに、なぜ、何でいきなりこんな事に?
私がいったい、何をしたというの?
私じゃなければいけないの?
どうして、どうして私なの?
もはや、村や家族、そして婚約者を奪われた事などエリスの頭の中にはなかった。
ただ、自分を守りたい。この危機から脱出したい。
動物としての防衛本能が前面に露出していた。
ある意味、家畜に一歩近づいたのだ。
身体を前後に揺すり、両手両足、首輪に繋がれた鎖を必死に引っ張り、逃れようとしている。
明らかに無駄な行為である。
そこには、理性のある人間の姿は無かった。
ただ、恐怖に脅える哀れな雌がいるだけだ。
むしろ、脅え、必死に逃れようとするその行為は、オークをさらに興奮させた。
「ああ、いや、いやあああぁぁっ!」
「誰か、誰か助けてっ!誰かあっ!」
「た、助けて、お願い、お願いですからぁっ!」
自分の村の人々を虐殺した憎いオークに対して、藁の上に這いつくばって必死に懇願するエリス。
無力で、哀れな雌奴隷の姿だった。
今更、助けが来ることなど有りえない。村は全滅し、頼りになるものは何もないのだ。
「ああ、いや、いやあっ!」
「や、やめてぇっ!」
鎖に繋がれ、犯される寸前になって逃げようとするものは多い。
飼育係にとっては、いつものことだった。
もう、鞭を振るって言う事をきかせるのも面倒だ。
それに、エリスの尻を凝視しているオーク達も、我慢の限界のようであった。
髪を振り乱し、両手両足、首輪に繋がれた鎖に対して、最後の空しい抵抗が行われた。
鎖のガチャガチャという金属音が、エリスの悲鳴と重なりさらに悲壮さが増幅される。
そして、ついにその時は来た。
飼育係の手がエリスの後ろの柵に伸び、それは勢いよく開け放たれた。
後戻りの出来ない、地獄の扉が…。
「や、やめっ、開け、開けないでえぇっ!」
「いっ、いやっ!、いやあっー!、いやああぁっーー!!」
「ヴッ!ヴォオオオッー!!」
その瞬間、エリスの悲痛な叫び声と、興奮したオークの咆哮が重なり合った。
もはや、エリスとオークを隔てる物は何も無い。
エリスの白く美しい尻に、オークの大きな手が伸びる。