<監禁 第2話>
「おい、真下!いい加減にしろっ!
そろそろ目的地だ。お前の唾液で汚れた顔を、綺麗に拭いとけ。」
美咲の顔中を貪るように舐めていた真下は、しぶしぶ顔を上げると命令に従った。
山道から細い脇道に逸れ、未舗装路に入って行くワンボックスカー。
荒れた路面に車内も激しく揺れたが、美咲が目を覚ます気配は無かった。
そして、ついに車は目的地である採石場に到着した。
そこには、1台のステーションワゴンが駐車してあった。
近藤が予め用意していた車である。ここで車を乗り換えるのだ。
近藤と真下の2人で、美咲を用意してあったステーションワゴンに乗せ変える。
座席を倒してフルフラットにした後部座席に美咲を横たえると、ワンボックスカーを
元の状態に戻す作業が行われた。エアロパーツが取り外され、尾灯も赤に戻された。
そして運転手がそのまま山を越えた隣の県まで運転して行き、明日にもスクラップにされる
予定である。
近藤がワンボックスカーの運転手に指示を出した後、ステーションワゴンの運転席に
真下が、助手席に近藤が乗り込んだ。そして、次の目的地へと移動を開始した。
真下は真っ暗な山道を運転しながら、ちらちらと後部座席に目をやった。
どうやら、まだ物足りないらしい。
「おい、ちゃんと前を見て運転しろ!ここで側溝にでも落ちたら、全てがパーだ。」
近藤は運転に集中するように命令すると、後部座席で静かに寝息を立てる
少女の顔を見た。こうしてじっくり見てみると、この少女に惹かれる者の気持ちも
分からないでもなかった。確かに、思わず見とれる程の美少女だった。
何しろ、とある住宅系会社のCMオーディションで優勝した、飛び切りの美少女である。
思わず、視線を前に戻すタイミングを掴み損ねる近藤だった。
そのオーディションには、実は美咲の友達が勝手に応募したのであった。
こんなに可愛く生まれてきたのに、田舎に埋もれているのは勿体無いというのが
その理由らしい。そしてその期待通りに美咲は優勝し、CM出演が内定したのだ。
そのCMに出る事は、今後の芸能界での活躍が約束されたも同然だった。
実際、そのCMに出た少女達のうち何人かは、有名女優へと成長していた。
だが、その事が美咲の運命を狂わせる元凶でもあった。
そのオーディションに応募さえしていなければ、こんな事にはならなかったのだ。
美咲を乗せたステーションワゴンは、近藤と真下の最終目的地であるダムの駐車場に
到着した。そこには、黒いワンボックスカーと黒いセダンの2台が駐車してあった。
既にクライアントは到着していたようだ。真下は黒いワンボックスカーの隣に車を止めた。
近藤と真下は同時にドアを開け、車外に降りた。
黒いセダンからも、2人の男が降りてきた。1人は若く、チンピラ風の服装である。
もう1人は40代後半で、スーツを着てはいるが明らかにその筋と分かった。
「ご苦労だったな、物は後部座席か?」
スーツの男は近藤に近づくと、ステーションワゴンの後部座席に目をやった。
若いチンピラ風の男は、スーツの男の少し後ろで近藤と真下に睨みを効かせている。
「ええ、今降ろしますから。おい、真下。」
顎で真下に命令すると、真下は急いでステーションワゴンの後部座席から美咲を降ろして
体を抱え上げた。意識が無く完全に脱力しているため、腕と足がだらんと垂れている。
チンピラ風の男が、懐中電灯で美咲の顔を確認している。
「兄貴、この写真と一致します。辰宮美咲に間違いありません。」
スーツの男も、真下の腕の中でぐったりしている美咲の顔を覗き込んだ。
確かに、オーディション時の写真と一致している。
眠っているようだが、なるほどCMオーディションで優勝というのも頷けた。
スーツの男はしばらく美咲の美しさに見とれた後、チンピラ風の男に指示を出した。
黒いワンボックスカーから更に2人の男達が降りてくると、真下の腕から美咲を受け取り、
自分達のワンボックスカーに乗せ代えて扉を閉めた。
それを見届けると、スーツの男は満足した表情で近藤に話しかけた。
「ところで、眠っているようだが何か薬品を使ったのか?
例の、刑事ドラマでよく出てくるような…、クロロ…何といったかな。
あと、どれくらいで目が覚めるんだ?体に悪影響は無いんだろうな?」
やれやれ、とんだ素人だ。
近藤は呆れ、少し憤慨しながらも、丁寧な言葉でそれに応えた。
「いえ、クロロフォルムは使っていません。
アルコールを肛門から注入して、酩酊させて眠らせてあります。
ご心配なく、アルコール濃度は大したことありませんから。朝には普通に目を覚ましますよ。
ちなみに…クロロフォルムは劇薬ですよ。触れた部分は腫れ上がるし、何より命に関わります。
それに、気絶させるのに最低でも5分は必要です。
あんなにうまくいくのは、ドラマの中だけですよ。」
少し話し過ぎたかと後悔した近藤だったが、スーツの男は感心したように大きく頷いていた。
「なるほど、そういうものか…。」
「後は、念のために紙おむつをしておきました。一応、替えも渡しておきますから…。
必要な場合は、交換してください。」
近藤は真下に紙おむつを持ってこさせると、チンピラ風の男にそれを手渡した。
紙おむつを両手で持って見つめるチンピラというのも、おかしな絵ではあった。
2人の男がセダンに乗り込み駐車場を後にすると、美咲を乗せた黒いワンボックスカーも
その後に続いた。それを黙って見送る、近藤と真下。これで今回の仕事は完了である。
近藤は静かになった駐車場で煙草に火をつけると、煙を肺いっぱいに吸い込んでゆっくりと
吐き出した。近藤は今回の仕事の出来に満足していた。
ワンボックスカーをチンピラ風の車に改造するのに若干金が必要だったが、これから受け取る
報酬に比べれば、微々たるものである。
わざわざこんな田舎にまで遠征したかいがあったというものだ。
真下は、美咲を乗せて消えた黒いワンボックスカーの方向をずっと見つめていた。
今回のターゲットが、相当お気に入りだったらしい。
近藤はそれを見て苦笑すると、真下の背中を叩いて言った。
「よーし!仕事は成功した!これから飲みにいって、全部忘れようやっ!」
さっきまで真下のことを苦々しく思っていた近藤だったが、仕事が成功した事で、
少し気持ちに余裕ができたようだ。
2人を乗せたステーションワゴンがダムの駐車場を出て行くと、完全な暗闇と静寂が
辺りを支配した。
美咲はその後、更に別のヤクザ組織を経由して、本当のクライアントの手に渡ったのは
翌日の朝、8時だった。そのころには、神社の前に自転車を残して行方不明になった美咲の
捜索は既に開始されていたが、その通りでの目撃者は皆無であった。
仮に車を目撃した人間がいたとしても、その車は色を塗り替え、エアロパーツを付け、
尾灯を白に交換された改造車である。もちろん、ナンバープレートも模造品だった。
そして、その車は既にスクラップにされていた。手がかりは、皆無だった。
美咲は、軽い頭痛と共に目を覚ました。
頭の中に白いもやがかかったようであり、少し吐き気もする。
そして、次第に視界がはっきりしてくると、白い天井が確認できた。
天井は、かなりの高さがある。そしてそれと同じ色の壁へと続いている。
天井から壁、そして床へと視線を移動させる。
全てが白一色で統一されており、シンプルな部屋である。
ここは…どこ…。私、いったいどうして…。
確か、あの神社の前で…。昨日の事を思い出そうとする美咲。
だが、それを頭痛が阻んだ。う~ん…何だか、頭がズキズキする…。
右手を頭にやろうとした美咲だったが、ガシャという金属音と共にそれは阻まれた。
え…??同じく左手を動かそうとするが、同じくガチャという金属音がして動かせない。
その時になって、美咲は初めて自分が手を大きく開いた万歳をしたような格好である事に
気づいた。そしてその右手首の方を見ると、そこには信じられないものがあった。
なんと、右手首に黒い皮製の手枷が装着されているのだ。
しかも、その先は太い鎖でベッドに繋がれている。左手首も同じ状況だった。
それを見た美咲は一瞬で目が覚め、両腕を何とか自由にしようと試みた。
「きゃっ、何?何、これっ!いや、いやあぁっーー!」
美咲の悲鳴と同時に、ベッドに固定された鎖の金属音が部屋に響いた。
足を動かそうとしても腕と同じく拘束されているらしく、自由が効かない。
更に、足は足首だけでなく、膝にも枷が装着され、膝の部分が外側に大きく開かされていた。
ちょうど、蛙の標本のような格好である。
足を自由にしようと太ももをバタつかせたため、セーラー服のスカートが太ももの上の
方までまくれ上がった。もう少しで、下着まで見えそうである。
「いやっ、こ、こんなのっ!だ、誰かあっ!助けてっ!!助けてえぇっーー!」
頭を左右に振りながら、両手両足を何とか自由にしようと必死にもがく美咲。
その姿は、部屋の各所に設置された高性能カメラで別の部屋に送られていた。
そして、美咲の泣きそうな顔をアップで捉えた映像を食い入るように見つめる男がいた。
ディスプレイを両手で抱え、まるで瞬きするのを忘れたかのように、凝視する。
「ほ、本物だ…。本物の辰宮美咲だ…。」
だぶついた頬を震わせながら、声を絞り出す男。
唾を飲み込み、アイドル誌を手にすると映像と写真を何度も見比べる。
よほど興奮しているのか、膝と肩が小刻みに震えている。
興奮する男の後ろから、穏やかで流麗な口調で声がかけられた。
「ご確認いただけましたでしょうか?堀井様。」
堀井と呼ばれた男は振り返ると、声をかけた黒服の男に詰め寄った。
今にも、掴みかかろうとするかの勢いである。
「は、早くっ!早く2人切りにしてくれっ!金なら、金ならあるんだっ!」
この堀井という男は30代半ばにして巨万の財を築いたIT関連会社の社長である。
金回りは良さそうだが、業界の評価は半々といった所だった。
成金を思わせるその太った体型も評価の分かれる理由の一つだったが、何よりその
金の力に物を言わせたワンマンぶりが批判されていた。
焦るIT長者に、黒服は冷静に対応した。
「お待ちくださいませ、堀井様。
本来なら、私どもが提供させていただく商品は、全て調教済みが前提となっております。
ところが、堀井様のたってのご希望で、今回は未調教でのご提供となります。
そこで、今回に限りこの書面へのサインをお願い致します。」
堀井に提示された書面には、以下の内容が書かれていた。
1.決して拘束具を解かない事。
2.オーラルセックスの禁止。
3.商品に対する暴力の禁止。
4.体内射精の禁止。
※血液検査を受けて正常と認められた者は除く。
5.提供商品により損害を受けても、当方は一切関知しない。
黒服から書面を受け取ると、堀井は書きなぐるようにサインをした。
サインを確認すると、黒服の男は満足した表情で説明を続けた。
「特に、2番には注意してください。何しろ未調教の状態ですので…。
15歳の少女といえども、噛み付かれればただでは済みません。
あとは…そうそう、堀井様は血液検査はお済みでしたね。存分に中に出して頂いて結構です。
ちなみに、処女である事は既に私共で確認済みです。このレベルの処女となりますと、
中々手に入りませんので…。今回の商品は、非常にお買い得ですよ。
あとは…まあ、未調教のため多少の抵抗はあると思いますが、それも一つの醍醐味です。
たっぷりと、ご堪能くださいませ。」
それでは、こちらへどうぞ…。