<言葉責め 第2話>
入室して10秒ほどして、すぐに相手からのメッセージが表示された。
aki >「こんばんは、ともみさん」
以外。
智美の予想に反して、普通の挨拶で会話はスタートした。
これでは、夜に同僚に会ったのと変わらないではないか。
まあ、最初はこんなものなのか。
智美も挨拶を返した。
ともみ > 「こんばんは、よろしくお願いします」
自分の打った文字が、画面に表示される。
と、直ぐに返事が返ってきた。
aki > 「こちらこそよろしく」
自分の打った文字を、相手も見てるんだ。
当たり前の事だったが、それを現実で感じた瞬間だった。
これがチャットか・・・。なんだか、少し楽しくなってきた。
aki > ともみさんは、このサイトは初めて?
ともみ > はい、初めてです
aki > 夜中にこんなサイトに来るなんて、Hなんだね
aki > 何歳?自分は今年で30歳
そういえば、メッセージの所に名前と合わせて年齢も出ていた。
自分よりも7つ年上だ。
智美は今まで自分と歳が1つか2つしか離れていない男としか付き合った事がなかった。
少しとまどったが、よく考えてみればチャットで少し話すだけだ。別に付き合うわけではないのだ。
まあ、年齢くらいなら教えても問題ないだろう。本当の歳を答えた。
ともみ >23歳です
aki > ねえ、このサイトにいっぱい部屋があったと思うけど、どうして自分の所に入ってくれたの?
aki > 入り口のメッセージの、どの部分に惹かれた?
意地悪な質問だったが、智美は正直に答えた。
その質問に正直に答えることによって、新しい扉を開く事ができるような・・・そんな気がした。
キーボードを打つ指が、わずかに震える。
ともみ > 言葉責めって書いてあったから・・・
aki > へえ、言葉責めの意味知ってるの?もちろん、知ってて入ったんだよね。
aki > いやらしくて酷いこと、いっぱい言われてみたいんだ。
aki > ともみは虐められるのが好きなんだね。マゾなんだ・・・。
aki > ね、いっぱい虐められてみたいんだよね?
智美から見ると、すごいスピードで文字が表示される。
こんなに早く話すんだ、自分について行けるのかな。
そんな不安を感じた瞬間、「マゾ」の言葉に体を震わせた。
マゾ・・・。
もちろん意味は知っているし、自分がその気質があるのも解っていた。
顔も見たことも無い他人に、指摘されるのはすごく恥ずかしかった。
だが、智美はこれにも正直に答えた。さも、それが当然のように。
ともみ > はい、そうです・・・
智美が、自らマゾであることを他人に対して認めた瞬間だった。
柔らかな白い頬が、うっすらとピンク色に染まる。